おそらく、日本を代表する革職人と呼べる宮崎泰二氏。彼が主催するブランド「無二(Muni)」は、2016年2月2日に門出を迎え、着々とファン層を厚くしています。
2021年4月には丸善丸の内本店と日本橋店が主催した恒例の革職人イベント、「丸善革職人店」にも出展し多くの人を魅了しました。
革職人がこだわり抜いた、一生ものの長財布を持ちたい!そんな秘めたる気持ちを抱えている人は、是非チェックしてください。
無二に使われる「コードバン」てどんな革だ?
無二が扱う素材のほとんどは「革のダイヤモンド」と呼ばれるコードバンです。それ以外に、クロコダイル革製品も少々揃えています。無二について知るための予備知識として、まずはコードバンがどのような素材なのかをご説明します。
世間一般に流通している革製品の多くは、牛革です。牛革は食用牛の副産物であり、日本は牛肉消費量が多いため自然と流通する革素材も牛が多くなります。その分安価に手に入り、それが最終的な製品価格に反映されるため流通量が多いのです。
一方、コードバンはどの動物から取れるかというと、馬です。しかもコードバンは馬の臀部(お尻部分)から取れる皮で、一頭からごく少量しか取れません。臀部にある皮の表面ではなく、深部の「コードバン層」を指し、厚さはわずか2mm、大きさは50×30cm程度なので希少性が高くなります。
■ コードバンを革財布に活用するメリット
コードバンは皮膚表面を加工して作る牛革やその他の皮革素材と違い、皮膚深部から取れるごく少量の革です。そのため繊維質が非常にきめ細やかで、皮膚表面に見られる細かい凸凹もありません。磨き上げると、滑らかな絹のようにツルツル、スベスベとした表面が生まれます。
※無二の財布ではありません
「革のダイヤモンド」と呼ばれるほどですから、長財布などの革製品に使用すると高級感が一層と際立ちます。無二ではそんなコードバンを、次の2種類の方法で仕上げています。
- 顔料磨き仕上げ(ナチュラル、ダークブラウン、ブラック)
- オイル染色仕上げ(ナチュラル、バーガンディ、オリーブなど)
顔料磨き仕上げは植物等から抽出したタンニン(渋み成分)を使用して革を鞣します。その上で顔料を使って革を染色し、色付けしていきます。皆さんが子供の頃に背負ったランドセルの多くが顔料磨き仕上げで作られており、光沢の中に鮮やかな発色が見受けられる仕上げ方法です。
オイル染色仕上げは、文字通りコードバンにオイルをたっぷり染み込ませながら仕上げる方法です。革が十分にオイルを吸い込むことで耐久性と柔軟性が増し、折り曲げに対する耐性もつきます。顔料磨き仕上げに比べると非常に艶やかで、革本来の色味や渋みを楽しめるのがメリットです。
ブランド主宰者、宮崎泰二のモノづくりに対する姿勢がハンパない
1979年誕生、革職人歴16年の宮崎泰二氏という人物に触れていきます。
無二を主催したのは2015年。石川県金沢市郊外に工房を構え、ブランドをスタートしました。宮崎氏のこだわりは素材の買い付け・デザイン・裁断・裁縫・仕上げに至る全プロセスをたった一人で手掛け、妥協を許さないことです。
そんな宮崎氏の職人魂を覗かせているのが、宮崎氏自ら筆を取っている無二のブログです。例えば2021年3月21日のエントリでは、革素材の「漉き(すき)職人」との会話できる貴重な機会について紹介し、専門的な知識や業界ならではの話などを披露してくれています。
忙しい仕事の傍らブログを運営しているので、更新は少ないものの、宮崎氏の職人としてのプライドや経験がふんだんに盛り込まれているので、読み物としても単純に面白いです。
また、ブログ内ではカスタム依頼についても触れていて、オーダーされた革財布の素材・パーツ画像も掲載しています。参考価格も公表しているので、「こんな財布は、これくらいの価格でオーダーできるんだ」と非常に参考になります。
何より、財布になる前の革素材が並んでいるところを見ると、「完成したらこんな感じかな?」と想像するだけで、長財布好きならワクワクした気持ちになれるはずです。新しい長財布へのモチベーションを上げながら、お酒を片手に革職人の日常を覗いてみるのも1つの楽しみ方かもしれません。
改めて語る、無二の魅力
無二の魅力をいくつかのパートに分けると、次に3つが特筆すべきものかと思います。
- 一品生産でクオリティが高く、特に「コバ磨き」の技術力が高い
- ひたすらシンプルを追求し、フォーマルにもカジュアルにもマッチ
- やっぱりコードバンの滑らかさ、艶やかさは他と一線を画す
それぞれ解説していきます。
■ 一品生産でクオリティが高く、特に「コバ磨き」の技術力が高い
長財布作りの中で、革職人の技術力が光る工程が「コバ磨き」。コバとは革製品の切れ端や切り口のことで、革素材を裁断した時の断面です。革製の長財布のほとんどはコバを磨き上げることで、断面に滑らかさを生ませます。
それは長財布としての高級感を演出するだけでなく、革素材の耐久性と耐水性を向上するための、非常に重要な工程です。無二のそれは、とにかく繊細な技術によって行われていて非常に美しいコバをしています。
無二のコバは非常に滑らかで、見事なまでにフラット。コバだけ1日中眺めることもできるほどです。
■ ひたすらシンプルを追求し、フォーマルにもカジュアルにもマッチ
無二の長財布はデザインがとにかくシンプル。やはり革職人としてのプライドでしょうか、「デザインよりも革本来の魅力で勝負する!」という気迫が感じられます。しかし、エッティンガーのように洗練されたシンプルさなので、フォーマルではもちろんカジュアルでもマッチするのが魅力的です。
それだけでなく、無二のコードバンは「薄さ」にも拘っています。スマートなシルエットを実現するために革素材の魅力を損なわないギリギリの所まで厚みを抑え、薄くてもよれたりせずにビシッと決まるデザインを実現しています。
その他、1つの長財布に対して革製品用接着剤を3種類使い分けたり、革素材ごとの個性に応じて曲げを加えて張りを調整したり、シンプルなデザインの中にひと手間もふた手間も加え、革職人としての魂を全力で注ぎ込んでいます。
■ やっぱりコードバンの滑らかさ、艶やかさは他と一線を画す
牛革が悪いわけではありませんが、やはりコードバンで作られた長財布を隣に並べてみると、存在感の違いは明らかです。繊維質が複雑に絡み合い、ハリと艶が強いので極限まで薄く加工してもピシッとした固さを残しています。
無二で採用しているコードバンは、世界屈指、国内唯一のコードバン鞣しを行っている「新喜皮革」の革素材を使っています。
こちらも、ものづくりにかける想いが並々ならぬ職人が集まった皮革事業者で、一枚のコードバンの中でも箇所によって強度を調整するなど、技術と歳月をじっくりかけた良質なコードバンを生産しています。
そんな新喜皮革のコードバンと、宮崎氏の技術がぶつかり合って誕生した無二は、知る人ぞ知る革製品ブランドとして人気を博しています。
ハイブランドにも引けを取らない価格。コスパの方は?
正直言って、価格は高めです。国内の人気メンズ財布ブランド、crafsto(クラフスト)の価格帯が20,000~40,000円程度なのに対し、無二の長財布は90,000~190,000円ほどです。5倍近い価格設定なので、なかなか手が出づらいのは否めません。
LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)の正規店で販売している長財布でも価格は60,000~150,000円程度なので、ややもすると海外のハイブランドに手が出やすくなります。
なので無二の長財布を検討していて、価格が気になるという人は表面上の価格ではなく、コスパで比較してみると良いでしょう。
革素材の中でもコードバンはトップクラスの耐久性です。「革のダイヤモンド」と呼ばれる所以でもあります。
私は10年以上使用されたコードバン製の長財布をいくつも見てきましたが、そのほとんどが良好な状態を保ったまま使われていました。もちろんメンテナンスは必要ですが、簡単なことを継続的に行うだけで大きな苦労はありません。
特にオイル染色仕上げのコードバンは、オイルが革素材の内部まで浸透しているため耐久性と耐水性が高く、柔軟性にも富んでいます。そうしたコードバンの中でも最高級品を使用した無二の長財布は、業界の中でもトップクラスの耐久性を持っていることでしょう。
無二がスタートしたのが2016年のことなので、10年以上使用したユーザーがいないため実績を提示できないのが残念です。
コードバンは「10年以上使ってようやく渋みが出てくる」というくらい長期間楽しめる革素材なので、無二の長財布はメンテナンス次第で20年30年、いやそれ以上もありえるくらいの設計になっていると考えられます。
つまり、コスパは「最強」です。
【総評】
世界で唯一無二の長財布を求めるなら、無二を検討すべし
90,000~190,000円ほどの予算を考えると厳しいという人も多いでしょう。しかし、「世界で1つだけの長財布」「一生愛でたい長財布」を求めているのならば、無二はかなりおすすめのブランドです。
ぜひとも、宮崎氏と直接コンタクトを取ってオーダーを依頼してください。そもそも一品生産なので、オンラインショップや正規販売店で売られている製品と、オーダーの価格があまり変わらないのも無二のメリットだと言えます。
たった1人の職人が全ての工程を手掛けているので、流通量はごくわずか。他人と被る可能性は圧倒的に低い、そんな唯一無二の存在を求める人はぜひ!
設立年 | 2015年 |
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主な価格帯 | 90,000円~190,000円 |
製造地 | 日本 |
品質 | 日本最高峰 |