【皮と革の違い】鞣し(なめし)とは?詳しく解説します

一般的に「皮革(ひかく)」という言葉がありますが、「皮」と「革」の違いはご存知でしょうか?またその違いはわかっていても、「革」の素材や加工方法には様々な種類や組み合わせがあり、結局良く違いがわからずに革製品を購入するケースも多いと思います。

ここでは、そういった方々に向けて、また私自身の勉強の意味も込めて、革製品選びの基礎知識として知っておくべき「革」についてのイロハを、主に革の原産地である海外のソースに当たりながらまとめてみました。
革への知識を深めて、より製品に愛着が持てればと思います。

目次

革は歴史上最も古く偉大な発明 ~ 革の歴史

革は人類の歴史上、最も古くて偉大な発明とさえ言われています。狩猟によって得た獲物を食用にし、その皮を加工することで衣服や靴を作るといったことは、人間にとって間違いなく最初期の活動で、その歴史は、人類の歴史とほぼ同じ長さを持ちます。

動物から得た皮は、そのままではすぐに固くなってしまいます。そこで、より柔軟性をもたせ、且つ丈夫にするために、様々な工夫が施されました。例えば、皮を動物から採取した油脂でこするといった様子が、アッシリアの文章や、ホメロスの叙事詩などに描かれています。

エジプト時代には、革の加工技術はかなり洗練されたものとなりました。紀元前5000年頃の壁画には、衣服、手袋、靴、その他各種の道具などに革が用いられる様子が描かれ、防具、装飾品なども造られるようになります。

また2008年にはアルメニアの洞窟から、5500年前のものと推定される「世界最古の革靴」が実際に発見され、ギネス世界記録として認定されています。

皮と革の違いは「鞣し(なめし)」にあり

上でも少し触れましたが、動物から得た皮は、そのままの状態では衣服や道具として使うのに適したものではありません。そのままでは当然腐敗が進み、また気温が低い状態では固くなり、耐久性もありません。この変化の激しい「皮」に、「鞣し(なめし)」工程を施すことで変化が少なく、柔らかく、安定して使用できるようにしたものを「革」と呼びます。

余談となりますが、日々生産される革製品の約5割は「靴」になると言われています。残りの5割の内、大雑把ですが半分が衣服、更にその半分が家具、そして残りが小物類などになっていると推定されます。

本稿では主に革製の財布や鞄を想定していますが、国内外のWEBサイトなどで、「革」について調査すると、靴を対象としたものが多いのは、このためと言えるでしょう。

皮の保管

動物の皮を「鞣す(なめす)」ことによって得られる革ですが、一口に鞣しと言っても、家内制のように小規模なものから大規模工場で行うもの、何ヶ月もの時間と手間暇をかける昔ながらの伝統工法から、クロム鞣しのように短期間で工程が完了するものまで様々です。

準備段階として、保管期間のバクテリアの繁殖を抑え、たんぱく質(コラーゲン)の防腐を目的とした塩漬けが行われます。これによって、浸透圧の違いで皮から水分が除去され、バクテリアが繁殖できない環境が生まれます。高濃度・高圧力で約1ヶ月の塩漬けを行ったり、塩水に約16時間浸す、また、他にも極低温状態で保管する方法などが取られます。

なめしの準備作業

■ ソーキング

皮を水に漬けて、保管期間中の塩抜きと同時に、水分を含ませることでその後の加工を行いやすくします。ソーキング期間中も、バクテリア増殖防止措置が別途取られます。

■ 石灰漬け(ライミング)

ソーキング後の皮を、石灰乳(milk of lime)で処理します。これは、毛や角質の除去、ムチンなど繊維間の余分なタンパク質の除去、動物性油脂や脂肪分の除去、コーラゲンの状態の鞣しへの適正化などを目的とします。

■ 脱毛

ライミング処理後に皮の表面の毛を除去します。現在ではほぼ機械で処理をした後、一部手作業での処理が行われたりします。(スカッディング)・脱灰(デライミング) — pH濃度を下げて酸性化(酸を加えることでアルカリ性を中和)することで、ライミング工程におけるカルシウムを沈殿させます。また、これによって、鞣し工程においてタンニンが皮に浸透しやすくなります。

知っておくべき「鞣し」の種類とその特徴

鞣しの方法には、古来、人の唾液を用いたり、魚の油を用いるような方法に始まり、下に挙げた以外にも多くの種類やバリエーションが存在します。特に革財布の購入に当っては、最初に挙げた2つ「植物タンニンなめし」と「クロームなめし」の概要を把握しておくと良いと思います。

■ 植物(vegetable)タンニンなめし

植物の樹皮や幹、葉、果実、根などに含まれるタンニン(しぶ)成分を用いた鞣し。当サイトで扱うような、高級革財布の多くはこの植物タンニンなめしによって造られる革を素材としています。
皮にタンニンを浸透させると、コラーゲンたんぱく質がコーティングされ、バクテリアの影響を受けにくくなり、また安定した性質を持つようになります。

ただし、このタンニンを皮の奥まで浸透させるのは、簡単ではありません。そのため、タンニンの濃度を徐々に高くした数十もの槽を用意して、漬け変えていくという気の遠くなるような作業が行われ、必然的に手間暇とコストのかかる工法となってしまいます。

一般的にタンニン鞣しでは、固く堅牢で可塑性に優れた革が得られ、鞄や靴底などの成型を必要とするものや、クラフト用途に適しています。切り口(コバ)は茶褐色。使い込む内に、飴色へと経年変化が見られるのも、タンニン鞣しの特徴であり、醍醐味と言えるでしょう。但し、次のクロームなめしに比べると、水気に弱く、その点扱いには注意が必要です。

また高温の水中に浸すと、大きく繊維が縮んで硬直する性質から、これをボイルドレザーと呼び、歴史的には革鎧(レザーアーマー)や、本の装丁などとして用いられました。

■ クロームなめし

1858年に開発された手法で、三価クロムを使用し、植物タンニンなめしに比べて、よりしなやか(supple)で、成型しやすい(pliable)特徴を持ちます。

特に水分に弱い植物タンニンなめしに比べて、色落ちや型崩れもしにくく、クロームから抽出される色から、wet-blue(ウェットブルー)と呼ばれることもあります。着色もより容易な上に、通常、クロームなめしにかかる時間は約1日で済むことから、全皮革の内、現在では約80%がクロームなめしと言われています。但し、焼却処分の際には有害物質が出て、環境的な問題があるとも指摘されています。

■ コンビネーションなめし

上記の、植物タンニンなめしと、クロームなめしを組み合わせたものになります。

■ アルデヒドなめし

グルタルアルデヒドやオキサゾリジン化合物を用いた鞣しです。白味を帯びていることから、wet-white(ウェットホワイト)とも呼ばれます。クロームフリーレザーの代表格です。幼児用や車用の靴の素材として多く用いられます。

■ セーム革(Chamois leather)

アルデヒドなめしの一つで、多孔質で水分を吸収しやすい性質を持ちます。魚油(伝統的には、たらの油)を酸化することで生まれるアルデヒドによってなめします。

■ ローズなめし

ピュアローズオットー油を用いて、製造後何年もたってからでも、バラの香りが匂いたつと言われます。地上でもっとも価値のある革と称されることもありますが、これは主にローズオットーのコストと、人手を要するなめしプロセスによるところが大きいようです。

最後に

高級革財布の多くは、手間暇のかかる植物タンニンなめしを用いて作られた革が多いのですが、中にはクローム鞣しの特徴を活かして美しく機能的なデザインが得られる場合もあります。

知識として、自分の持つ革製品がどのようにして出来たものかを理解しておくことで、愛着も更に湧いてくるに違いありません。本稿がその一助となれば幸いです。

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